デザイナー 2023.06.22

interview vol.2
─ ロングセラー“moderato” (後編) ─ロングセラーアイテム「moderato」について、デザイナー荻野さんとセラミック・ジャパン代表大橋のインタビュー後編をお送りします。

リリースから20年を超え、いまやセラミック・ジャパンを象徴するアイテムとなっているmoderato。前回に引き続き、デザイナー荻野克彦さんとセラミック・ジャパン代表の大橋正之によるインタビューの続きをお送りします。ロングセラーアイテムを生産し続けることにスポットを当て、そこに秘められたお2人の思いに迫ります。


 

Q:セラミック・ジャパンにはmoderatoのようなロングセラーアイテムが多いと感じています。

大橋/私たちが目指しているのは、心地よく使い続けられるものを長く作り続けるという北欧のスタイル。たとえばカップソーサーを購入されたお客様が、10年、20年先にソーサーだけを割ってしまったとしても、同じものを補充できることが大切だと考えています。そのため、一度販売したアイテムは、基本的に長く作り続けるという方針です。
その中で、「moderato」のようにセラミック・ジャパンのアイコン的存在となっている「Crinkle」は、小松誠さんがスウェーデンから帰国して、日本で最初に手掛けたプロダクトデザインです。創業まもないセラミック・ジャパンを牽引した栄木正敏さんの「手描きの食器シリーズ」に続く柱となり大きな支えになっています。継続して生産できるということのもあり、OEMの相談や作り続けている製品も多く、「アヒル」は生産開始から40年以上が経っています。

Q:ロングセラーとなるアイテムには、何か共通点があるのでしょうか?

大橋/もしかしたら共通点があるのかもしれませんが、最初から「これは長く売れる」と思って作り始めたことはないですね(笑)。私は常に、流行りのものではなく、今までにないセラミック・ジャパンならではの製品を提案して行こうと考えているので、市場調査はまったくしたことがありません。だから、売れるかどうかは出してみなければ分からない。私たちの開発は製品で止まらず、新製品にふさわしい販路につなげるまでが開発です。それがロングセラーにつながっているということだと思います。

荻野/ロングセラーの共通点はデザイナーと現場の情熱。つまり、「これは大切」「これは困る」「これはいらない」と常日頃から心がけ、取り組んで来た結果です。現場がデザイナーの独創性を大切にプロダクトアウトしたものを、目にし、手にした人が「これいいね」と頷き、私も「そう思う」という人の共感の環が広がって行く・・その先にロングセラーがある。大橋さんは、その情熱を創業者から引き継いでいるから、セラミック・ジャパンにはロングセラーが多いのではないでしょうか。長く作り続けることで現場は安定するし、生産の効率性を高めることができます。製品のクオリティーだけではなく、梱包や配送に至るすべてに関して言えることです。


 

Q:ロングセラー商品は模倣されることも時にあると思います。その点はどんな風に感じられますか?

大橋/たしかに、これまでも多くの模倣品がありましたが、安価であることが脅威ではあるものの、やはりセラミック・ジャパンの製品に比べれば、品質や出来は落ちます。抑止力になればと、オリジナルティを重視するヨーロッパにならって、セラミック・ジャパンの製品にはデザイナーの名前を入れていますが、模倣されるのは製品に力があるからでもあります。品質には自信を持っていますから、お客様には製品の力を感じてもらえれば と思っています。

荻野/私は自分が「初めてだ」なんて恥ずかしくて言えません。今あるものはすべて過去の繰り返し、子どももみんなそうだと思います。私たちは物まねをしながら成長してきたのです。問題があるなら自分たちのやりたいことを踏まえて、問題に向き合っていくだけです。

大橋/同じ様なものが溢れていても、やはりその時その時の生産者の気持ち、それを受け入れてくれる使い手の気持ちが重なって、「これはいい」と感じられるものがオリジナルなのだと思います。その中で、成形方法や釉薬の選び方などによってセラミック・ジャパンの色合いが濃くなり、年月を経ることでそこに生まれてくる信頼もより厚くなります。その結果として、関わるすべての人が「よかった」と思えることが大切。そしてそれが50年も続いたこと自体が、オリジナルだと感じています。


 

Q:長く作り続けることには苦労もあると思います。今のものづくりの現場について思いはありますか?

大橋/そうですね。瀬戸も窯元が減少してきて、人手不足から手間がかかるものができなくなったり、納品に時間がかかったりするケースも出てきました。「moderato」も作りやすさを考えたデザインではあったものの、やはり形状が難しく手間がかかることは事実です。そこで、5年ほど前から少しずつ自社で内作できる環境づくりを進め、2021年からはカップやマグなどの排泥鋳込みの製品については、社内生産に移行しました。

荻野/日本全国、「なぜ、こうなったのか」。実際は、半世紀近く前からこうなるとは分かっていたのに、肝心な「産地とは何なのか、誰のために在るのか」を忘れ、人が集まれば昔の儲け話と愚痴ばかりが目立つこともあったのではないでしょうか。過去が残してくれた独自性を継承し、今に生かしていく。いよいよセラミック・ジャパンの出番と思うのです。生活に寄り添った創意工を、多品種でありながら生産過多を避け、高品質をモットーにして、世界を相手に、例えピンポイントであっても母数が1億人なら100万個・・・と前向きに(笑)

大橋/自社の製品を長く作り続けるというポリシーを守ることはもちろん、私たちは常にデザインの力があるものをていねいに作ることを実現できるものづくりの会社でありたいと思っています。そのためにも、自社生産体制を拡大していくことは、社内のスキルアップにつながる大切な要素。将来的には、自社の製品はすべて自社で作ることを目指していきたいと考えています。


 

現在のmoderatoのラインナップ

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「moderato」シリーズの成り立ちから現在までのプロセスを辿った今回のインタビュー。製品に対するお2人の思いを聞くと、「moderato」こそものづくりのポリシーや、作り手の情熱を形になっているように感じました。

お2人には、今後も陶磁器やセラミック・ジャパンの製品について、そして瀬戸という産地について、思いをお聞きする機会を持ちたいと思います。