デザイナー 2023.06.13

interview vol.2
―ロングセラー“moderato” (前編)―ロングセラーアイテム「moderato」について、デザイナー荻野さんとセラミック・ジャパン代表大橋のインタビューを行いました。

moderatoシリーズは、セラミック・ジャパンでオリジナル製品として販売がスタートした2002年から、実に20年以上も愛され続けるロングセラーアイテムです。interview vol.2の前半となる今回は、moderatoの始まりと、デザインの理由、シリーズ名に込められたデザイナーの思いについてデザイナー荻野克彦さんとセラミック・ジャパン代表の大橋正之に、対談インタビューを行いました。


 

Q:どのような経緯でセラミック・ジャパンでmoderatoを生産することになったのでしょうか?

荻野/moderato は、LDヤマギワの本澤和雄さん、スーパーポテトの杉本貴志さんと私とで設立した「TIME STUDIO」で1987年に発表。制作はセラミック・ジャパン。当時は天目釉の黒い器でした。そのTIME STUDIOも10年一区切り。製品を整理する段になってmoderatoをどうするか。セラミック・ジャパン創業者の杉浦さんに相談したところ、即、「作りましょう」と。ちょうどAgenda21へと世紀が変わる時代。環境への配慮や関心が高まっていた2000年前後の話です。そんな時代背景から素地と釉薬をアースカラーでと決めて調合、試作を繰り返し、セラミック・ジャパンならではの表情豊かなearth-stoneになったのです。


 

Q:ハンドルからボディまでがつながるmoderatoのカップの形状。このデザインはどのように生まれたのでしょうか?

荻野/日本の湯呑みにはもともと取っ手はありません。戦後の復興期、日本の輸出産業の花形は陶磁器で、しかも1ドルが360円ですからバイヤーが押し寄せるのは当り前。カップやマグの大量注文はありがたいけど、一個一個、正確に接着しても、施釉、焼成、梱包、輸送の段階でポロリと外れてしますようでは・・・ハンドルの後付けはどうにも・・と、そんな苦労話をヒントに、ハンドルとボディの一体化を考え、一体感をより視覚化するため基部全体を滑らかな凹みでつなぎスプーンレストとして用途も与えて、今では見慣れたカップのポイントにしたわけです。

大橋/荻野さんのデザインには、moderato以外にも一体的に成形されたものや、異素材のハンドルを組み合わせて強度を上げたものなどがあります。これまでにセラミック・ジャパンでも、ステンレスのハンドルやハンドルの代わりにリング状のシリコンゴムをはめ込んだ製品 を作らせてもらいました。

荻野/大橋さんは、陶磁器以外の素材についても生産者のネットワークを持っていて、しっかり対応してもらえるのでありがたい。常々、私はいいデザインは素材と技術の特性を生かして作られたものであり、合目的性に優れ、経年変化に耐え得るものだと思っているのでとても助かります。


 

Q:moderatoというシリーズ名は、どのように決められたのでしょうか?

荻野/イタリア語でmoderatoは「適当な」と言う意味。楽譜の速度標語では、“中くらいの早さ、歩く早さで演奏せよ” です。新たにセラミック・ジャパンで製造・販売しようと準備していた2000年頃の日本は、周りに目をやる余裕もなく、経済一辺倒で走っていて、霧に巻かれゴールが分からなくなった状態・・・立ち止まってみたら、これまでの豊かさに「はてな?」「これでいいのか?」と不安になるばかり。現在に続く不況の始まりです。
何はともあれ横並びの没個性から抜け出して、まずは自分の「価値のものさし」を、moderatoで一服しながら改めて計り直してみてくださいと、エールのつもりです。

大橋/そうですね。モデラートの意味を聞いた時は、ゆったりとお気に入りのコーヒーを飲むシーンが思い浮かんで、すぐに「それでいきましょう」と答えました。


 

Q:moderatoがセラミック・ジャパンで作られ始めてから、ラインナップやカラーにもさまざまな変遷が?

大橋/はい。生産がスタートして3年後の2005年には、ラインナップにマグが追加され、2015年にはボウルが加わりました。ボウルを追加したタイミングで、角皿・長皿だったプレートも丸皿に変更しています。

荻野/以前、個展をしていて、「一人暮らしなので、こんな感じで、汎用性のあるものを」との問いかけに応えたことがあります。商品構成の過去の延長線から解放されて新たな可能性に挑戦できるのも工房規模のセラミック・ジャパンだからです。

大橋/カラーでは、2014年に5色展開のスマートフォンが発売されたことを機に、一度カラフルなものも作ってみようと、ホワイト、ピンク、イエロー、ブルー、グリーンの5色を試作し、海外の展示会で発表しました。その頃から、すでにOEMの海外展開にも着手していたため、多彩なものに対応可能な点を訴求することができたと思います。このカラー展開は試作で終わり、2015年にはホワイトだけを残して、現在のラインナップに落ち着いています。

荻野/「商品は創造するもの」がセラミック・ジャパンのコンセプト。商品の変遷は時代の必然です。使い手に寄り添って変わっていくこと自体が進化だし、時代の裏付けがあってこその商品です。


 

現在のmoderatoのラインナップ

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・・・リリースから今に至るまでを作り手のお2人ともに辿るインタビュー。後半では、長く愛されるロングセラーアイテムに対して、お2人が抱く想いをお届けします!!