デザイナー 2023.09.30

50th special interview
─ セラミック・ジャパンの“これまで”と“これから”(後編) ─2023年に50周年を迎えたセラミック・ジャパンについて、デザイナー荻野さんとセラミック・ジャパン代表大橋のインタビュー後編をお送りします。

セラミック・ジャパン創業50周年を記念してお送りしている、スペシャルインタビュー。 これまでの50年を振り返った前半に続き、後半はデザイナー荻野克彦さんとセラミック・ジャパン代表取締役の大橋正之に、セラミック・ジャパンと陶磁器産地・瀬戸のこれからなど、感じている思いを聞いてみました。


 

難しさを楽しむことにこれからを生きるヒントがある
Q:50周年を迎えた今、これからを見据えてスタートしている取り組みはありますか?

大橋/5年ほど前から、少しずつ自社での内作に着手してきました。まだほんの一部ですが、鋳込みから焼成までの体制を整えて、今後も作れるものを拡げていきたいと考えています。その背景には、人手不足や廃業によって手間のかかる丁寧な製品を生産してくれる作り手が減り、メーカーの移動や使用する原料を変えざるを得ないケースが増えてきたという現状があります。でも裏を返せば、手間のかかる丁寧なものを生産するメーカーが無くなっていくということは、セラミック・ジャパンの次の50年のヒントがあるのではないかと考えています。

荻野/想定外になれば「まさか!」と大騒ぎするけれど、まさかの語源は「目先」。目の前の現実がありそうもないことだとは?…ピンときませんが、放っておけば「やっぱり」になって…後悔先に立たず、です。そうなる前に大橋さん流に「でも裏を返せば」と…それぞれがそれぞれの問題に向き合い、無理をしてでもやるべきことをやらなければ。

大橋/一番大事なのは、今までセラミック・ジャパンが大切にしてきたデザイン、クオリティ、そしてオリジナリティを崩さずに守っていくにはどうあるべきか、です。他で作れないモノを自分たちで作るということは、スタッフ同士がお互いに新たな気づきの中で工夫し、ものづくりの楽しさや面白さを知り、結果的にクリエーティブな現場になっていけばと思っています。

荻野/スタッフの、「私はこうしたい、こうやりたい」を掬い上げ、共通の問題として取り組むこと自体がデザインです。創業当時の手描きシリーズは則さんという瀬戸でも屈指の絵付師を迎えたこと、次に小松さんのデザインした“POTS”が第1回国際陶磁器展美濃‘86でグランプリを受賞し、さらに同氏の“クリンクルシリーズ”がMoMAのパーマネントコレクションに選ばれ世界へ広がっていき、今のセラミック・ジャパンがあるのです。その遺伝子を受け継ぐデザイン、つなげるデザインを学ぶことが、大橋さんの言う「一番大事なのは」の意味です。世の中が求めているだろう製品はAIにまかせて、自分たちにしかできない独自の「在ればいいな」を作り、「私もこんなものが欲しかった」と、気にいったものを大切に使う人たちへとつないでいくには、素材から最大限の魅力を引き出す技術とフォルムを決定する表現力など、それなりの勉強がいるのです。


 

思いに共感する作り手・使い手が集まる場に
Q:内作という挑戦を進めていく中で、どんなことに力を注いでいるのでしょうか?

大橋/人を育てていくことですね。最近は、年に1人ずつ人材を増やしています。「ハードルが高いものにチャレンジしてみよう」という陶磁器に興味のある人が集まって、思いを共有できる「場」にしていければいいですね。みんなで盛り上げていく、進んでいくという意識があることが、会社が存続するために必要なことだと思います。

荻野/セラミック・ジャパンを、誰もが「いい時に居た」、「いい所に居た」と思える「場」にしていくためには、与えられた先入観や固定観念のデザイン?ではなく、それぞれの持ち場に共通する対象をしっかり理解して、相互に働きかける努力の連動が必要です。勉強と努力、デザインは同意語様なもので、自分の能力を自分で開発していく力になります。その積み重ねが内側から「在ればいいね」を作り出し、外へと広げていくのです。大量に作られた物は価格に見合った機能が全てで、そこで働く人や環境のことまで知ろうとは思いませんが、作り手が何を大切にしているかを、一目見て、手にして、それが伝わってくるものなら、それらが生まれた背景にごく自然に入っていけるのです。身近に置いて使って見たくなるような新鮮で、楽しい、面白い、心地いい、エスプリやユーモラスな雰囲気をまわりに振りまく、クリエーションとはそういうものなのです。

大橋/そうですね。そうした思いやエネルギー、学びを共有することによって、最近では新しい成果も出てきています。これまでは荻野さんはじめデザイナーの提案を形にしてきましたが、2022年には自社でデザイン・制作した作品をコンペ(国際陶磁器展美濃“21)に出品し金賞を受賞しています。これもスタッフの日頃の努力と学びの証で、次の50年に向けた新たな一歩になっていると思います。


 

作り手が込めたリアリティを新たな楽しみにつなげる器を
Q:これからのセラミック・ジャパンや産地の在り方をお聞きしてきましたが、これからの器についても、デザイナーと作り手としての思いをお聞かせください。

荻野/“モデラート”を味にたとえれば、食べなれた家庭料理にスパイスを加え、味を新たに整えたことになります。高級店や専門店、ファミレスから赤提灯の飲み屋まで、あるいはインスタントや冷凍、レトルト食品など、どれもそれぞれ特徴ある味つけが求められ、実際、食傷ぎみの人たちを刺激するために際だった演出がなされています。でも私にとっては、どっちにせよ、おいしい方が正しいのです。デザインも同じで、唯一絶対的なものがない以上、自分から主体的に選択する他ありません。私はこの歳までに色々な人、モノ、風景に出会うたびに変わってきたはずだし、嫌な時でも、楽しい気分でもその時々の本音なのだと自覚しています。なので、頭の中に思い浮かぶ色や匂い、空気や風、顔、姿形、装い、しつらいなど、「器」なら、食べた料理や飲みもの、大きさと形、色や柄、盛付け方、指先に伝わる重さや口もとの感触、味わいなどの細部に至る一つひとつの全てが、私のデザインの原点なのです。

大橋/私は食べること・吞むことが好きなので、食材と合わせておいしくいただけるものが、一番いい器だろうと思います。先日信州へ行って仕入れてきたタラの芽やウドを自分で天ぷらにしたんですよ。椿の八寸皿に紙を敷いて盛り付け、小松誠さん自作の信楽のお猪口に入れた洋酒と一緒に、かみさんといただきました。この料理にはこの器をといろいろ考える楽しさがあるものがいいですね。そうした意味では、木工や金属など陶磁器にはない表情のある素材にも、とても興味があります。

荻野/実は、私はただの食いしん坊。気取らず飲み食いし、楽しさを味わうのが好きなのです。高知の「皿鉢料理」のように大皿に色々盛って、めいめい好きものを好きなだけ取り皿にとって、ワイワイ、ガヤガヤやるのがいい。同じ料理でも大らかな器に色々盛られている方がおいしく見えますよね。最近、脳科学の分野で、常に楽しそうにしている上機嫌な人といるだけで、日々の生活に疲れている人も気分が上がるという研究結果が出たと聞きました。そうであれば、私たちも大いに脳の回路を刺激して、上機嫌で楽しいものづくりに徹し、使い手ともども創造性のある豊かな生活を手にいれなくてはと思いました。


 

今回のインタビューで語られた、情熱をつないで歩み続けた50年間と、次の50年に向けて踏み出した新たな一歩。そしてお二人の好きなものの話。セラミック・ジャパン、瀬戸という産地、そして器に向けたお二人の強い思いが伝わってきました。今後も受け継いできた信念を胸に、進化を続けていくセラミック・ジャパンに、ぜひご期待ください。